キーパーソン取材: 立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口治明氏 「世界中の『ダイバーシティ』『高学歴』な人を活かす社会が新しい産業を生み出す:採用手法から変えなければいけない」

2020.01.28

出口治明氏プロフィール:1948年三重県美杉村生れ。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社(現ライフネット生命保険株式会社)を設立。社長、会長を10年務める。2012年に上場。2017年会長職を退任。2018年より現職。旅と読書をこよなく愛し、訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える。とりわけ歴史への造詣が深く、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では歴史の講座を受け持った。著書に『生命保険入門 新版』『仕事に効く教養としての「世界史I.II.」』『人類5000年史(I,II)』『全世界史(上・下)』『座右の書 「貞観政要」』『「働き方」の教科書』『0から学ぶ「日本史」講義(古代篇、中世篇)』などがある。

<取材・記事> Global People make Global Companiesをミッションにグローバルな若手層にキャリア情報を提供するJPortJournal.comを運営する株式会社SPeak 代表 唐橋宗三・マーケティング担当 Peter Jaya Satyo(インドネシア出身APU卒留学生)>

大分県に立地する立命館アジア太平洋大学(APU)は、「APUで学んだ人たちが世界を変える」を2030年ビジョンとして掲げ、日本人・外国人の垣根がなくボーダーレスな環境に世界中から優秀な学生が集まり注目されている。APUは、正規外国人留学生の学部生総数&学部生比率(約50%)で国内No.1の実績を誇り「若者の国連」とも呼ばれている。今回は、APU学長・出口治明氏に「外国人留学生」「グローバル人材」「ダイバーシティ」「新卒採用方法」の観点からAPU東京オフィスにてインタビューを実施。出口学長は起業家として旧態依然であった生命保険業界に革命を起こしたライフネット生命創業者としてだけでなく、「知の巨人」としても著名で各方面から大きな関心を集めている。

記事ハイライト
・世界中の若者がチャレンジできる「ダイバーシティ」と「高学歴」をキーワードとした大学を作ることが日本社会の成長に必要
・ダイバーシティとは、それぞれの違いを認め受け入れること。最初に取り組むべきは男女差別だ
・企業の採用方法も旧来の5要素採用を捨てて大学院生をリスペクトし、成績採用に切り替えるべきである

English version for young global talents, read the article here

”日本社会・企業成長の鍵は「ダイバーシティ&高学歴」=世界の常識”

Q1. 日本全体でも留学生数30万人時代に突入し増加傾向にあるが、留学生のようなグローバル人材は日本にどのような影響を与える?

出口学長)これは歴史上既に答えが出ている。世界中から優秀な人材を集めた社会は繁栄するし、来ない社会は繁栄しない。GAFAのような新しい産業やその予備軍と目されるユニコーン(時価総額1,000億円以上の非上場企業)が起こる条件は、「ダイバーシティ」と「高学歴」。世界中からいろいろな人が集まってこないと新しいアイデアは生まれない。ダイバーシティが生まれてくれば日本の成長につながるが、問題は日本社会や企業が受け入れることができるかどうかだ。いままでの日本は戦後の高度成長を支えた製造業の工場モデルが中心で、人口増加・高度成長が大前提だった。しかし、現在は人口減少・低成長の時代。今後も成長するためには、「ダイバーシティ&高学歴」な人たちを受け入れて新しい産業を生むしかない。今後、日本が栄えるかどうかは、ダイバーシティと高学歴の2つがキーワードとなる。また、世界と比較すれば米国・英国などに比べればまだまだ日本の大学は留学生を受け入れる体制になっていない。世界標準である秋入学・英語入試ですら実現できないようでは、優れた学生が集まるはずがない。

Q2.企業はもっと留学生の様なグローバル人材にオープンになるべきか?どのようなアプローチが求められるか?

 出口学長)日本は元々、移民が作った国であるのでポテンシャルはある。また、これからの成長や新産業を生む鍵は、我が国に多様性をもたらす外国人にももっとオープンになるべきだ。現在の採用方法は、製造業の工場モデルに過剰適応したいわゆる5要素(「偏差値」「素直さ」「我慢強さ」「協調性」「上司のいうことを聞く」)チェックをしているだけ。採用方法そのものが間違っている。新卒一括採用も見直すべき。「ダイバーシティ」と「高学歴」というのは、世界の共通項になっているにも関わらず、そういう認識すらないというのが、今日の日本の問題。新しい事業を起こすのであれば、避けては通れない。

Q3. 日本における「ダイバーシティ」の問題点は?

 出口学長)ダイバーシティの根本は男女差別の撤廃からだ。世界経済フォーラムによれば、日本の女性の社会的地位は153カ国中121位という体たらくだ。恥だと思わなくてはならない。男は仕事、女は家庭という製造業の工場モデルから脱却しなければならない。性分業を促す、配偶者控除、第3号被保険者等の両制度を廃止してクオータ制を大胆に導入すべきだ。また、秋入学に対応するためには大学側の体制整備も必要だ。APUは全ての情報を2言語で発信している。そういう2言語での対応を行っている大学はほとんどない。いまの状況は、世界の留学生は主に米国・英国に行ってしまっていて日本に留学にくる人は少しは伸びているもののその割合は少ない。ようやく日本政府も重い腰を上げて、留学生の増加に本腰を入れ始めた段階だ。

”ダイバーシティ促進の鍵「グローバル市場・海外展開は現地出身の社員を信頼し任せる」”

Q4. 企業が真にグローバル化するにはどうすれば良い?

 出口学長)例えば鹿児島で商売するなら鹿児島出身者を採用すれば、鹿児島のネットワークが広がる。これとグローバル化も同じで、世界で商売をするのであれば、外国人を責任者とする以外の解はない。日本人だけでできるはずがない。

Q5. 日本企業の海外展開でローカライズが進まない会社が多い理由は?

 出口学長)現地法人トップに日本人を置くのは最悪の方法。90年代にAXAが世界1位の保険会社になった。その方法を当時のAXA会長にインタビューしたことがある。その方法は簡単で例えばベトナムに子会社を作るときは、現地の新聞に現地社長候補募集の広告を出し、面接では経営計画と自分をPRする文章を出してもらう。十人くらい面接したら、事業計画を自分で作る必要がなくなる。AXA本体がやることは、その人間が信用できるかどうかを判断するだけであったという。ところが、日本企業の海外展開は、まず進出国に一年ぐらい日本人を赴任させて自前で市場調査から始める。1年ぐらい勉強したところで、現地で育った人に比べれば劣るのは当たり前。要は、外国人を信用して採用できないのであれば、その国の社会でビジネスなんかできる訳が無い。

“新卒採用方法も世界標準に合わせ、大学院生をリスペクトし、成績採用に切り替えるべき”

Q6. いままでの新卒採用について

 出口学長)人口増加・高度成長という2つの条件がそろってはじめて、新卒一括採用・終身雇用・年功序列・定年制というワンセットのガラパゴス的な労働慣行が成り立つ。これまでの日本は製造業の工場モデルで成長してきた。しかし、アイデア勝負のサービス産業の時代に5要素(「偏差値」「素直さ」「我慢強さ」「協調性」「上司のいうことを聞く」)の人材では、新しいアイデアなど出るはずがない。毎年、新卒を一括採用をする意味があるのか、そこから疑わなければいけない。人を雇うということは、必要かどうかで決めるべきであり、新卒一括採用をゲームのルールが変わったのに継続している時点で何も考えていないということ。一括採用をやめて、学生には思う存分学ばさせて、「ダイバーシティ」「高学歴」の学生に選んでもらえる様に、採用方法も現行の方法から成績採用(例えばGPA重視)に変えるべき。理由は明白。自分が選んだ大学で良い成績をあげた学生は、自分で選んだ職場でも良い成績を治める蓋然性が高いのは当たり前ではないか。また留学生を採用する際に、日本語レベルがN1・N2(日本語能力試験において高いレベル)ということを気にする企業がまだ存在する。それも大事だが、より大事なのは「ダイバーシティ」を受け入れるシステムに変革することだ。

Q7. 経団連の就活ルール撤廃について

 出口学長)学生はまず勉強しなければいけない。卒業後に成績採用(GPA)を行うのが原則だ。この方法であれば、全世界の人にマッチする。高学歴がキーワードなので、しっかり勉強した学生を大事にしなくてはいけない。しっかり勉強した大学院生を社会全体でリスペクトする社会に変えていかなければならない。関西学院大学・村田学長の論文にあるが、労働生産性とその社会の博士号取得者比率は正比例するそうだ。極論ではあるが経団連など産業界が実行できないのであれば、政府が法律で成績表を見ずに採用した企業には法人税を倍にするぐらいの荒療治をしてもいいと思う。インターンシップは学生にもメリットが多く良いと思うが、やるなら本腰を入れて少なくとも数ヶ月以上はやらなければ意味がない。何度もくり返すが、キーワードは、「ダイバーシティ」と「高学歴」であり、この2つが新しい産業を生み出し日本の成長を支える原動力になるのだ。


インタビューを終えて・・・
起業家として、教育者として様々な功績を残してきたにも関わらずフランクな意見を述べていただきました。記事では伝えきれない、熱量や歴史・ファクトに裏付けされた考察の深さに感銘を受けました。時折見せられる実績を残してきた経営者の顔に、インタビューする私たちも良い緊張感を持ってお話を伺うことができました。JPort Journal.com を運営する私たちのメンバーの中にも留学生のメンバー(マーケティング:インドネシア出身元留学生、インターン生:各国から複数名)も留学生視点に立った数々のアドバイスを受けて勇気づけられていました。日本人・外国人に関係なく「ダイバーシティ・高学歴が日本の成長を支える」ことに私たちメンバーも大きく貢献していきたいとインスピレーションを受けたインタビューとなりました。


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